2017年06月12日

「癌になった医師は化学療法を受けるのか」

「先生がこの子の飼い主だったら、どうしますか?」

ときおり、こんな質問を受けることがあります。

むずかしい病気にかかった動物の検査や治療。それにはリスクやお金がかかることもあります(たとえば、発作をおこしている動物の原因追求には、全身麻酔下のMRI検査が必要なことがあります)。検査をして、必ずしも原因がわかるわけではない。

だから、飼い主さんは「いろいろ負担をかける検査は・・・」「もう高齢だからなあ」と検査や治療をすることに悩みます。

悩んでも、どうすればいいかわからない。そんな飼い主さんの中には、冒頭の質問をなさる方がいます。
私は自分の獣医学的知識と個人的な意見を交えて、「私なら・・・」と正直にこたえます。むしろ、そうした質問をして下さるほうが、実は話がしやすい。
獣医師というときには冷たい存在から、私という個人としての話ができるからです。それが本当にいいのかどうか、単純に獣医師の個人的な価値観を披露していいのかどうか、そこには高度な議論が必要なのかもしれませんが、悩んでいる飼い主さんを前に、おもうところを正直に話すことは、多少でも助け舟を出すことになるのではないか、ともおもっています。

獣医師にとって、ある検査をして原因がはっきりしなければ、次の検査に進み、そうした正しい手順を踏むことは間違ってはいない。というよりも、獣医師からすれば、それは正しいとか間違っているとかではない。必要か不要か、ということですが、科学的に正しい手順が、飼い主とペットにとって、必ずしもしあわせにつながるとはかぎりません。そこを読み取ることも、獣医師の仕事ですが、それがまた、むずかしい。

少し話は変わりますが、日経メディカルオンライン版に、こんな記事がのっていました。

「癌になった医師は化学療法を受けるのか」

おおまかにまとめると、大森赤十字病院の佐々木槇第一外科部長の調査では、医師や薬剤師が癌患者になったときに、「胃癌の補助化学療法では10人に1人、進行・再発胃癌では実に4人に1人が化学療法に対して消極的に考えている」という。

いざ自分のことになると、他人にはすすめていた治療法は選択しない。いろいろと考えさせられる記事です。

検査の話にしろ、治療の選択にしろ、どんなに獣医師が客観的情報を提供しても、それだけでは不十分だとおもいます。新人のころにはわからなかったことが、やっとわかってきた気がします。

佐々木医師がおっしゃっているように「患者(動物病院では飼い主)の希望にも耳を傾け、寄り添った治療」をすることが重要なのでしょう。

当院の院長は常々、「飼い主の心に寄り添って下さい」と口にします。それを実現できていないことも多いのですが、自分が飼い主さんだったら、という意識をもっとも大切にしたいと考えています。





posted by kaihin-amc at 16:59| Comment(2) | 動物病院
この記事へのコメント
畠先生のこのブログ記事をよんで、ある記事を思い出しました。その記事には、

「米国医師の倫理規範には、『医師は患者に害を及ぼさない』と書かれていて、続けて『医学は科学であり、人文学である』とある。米国のメディカルスクールでは、非人間的になりうる“医療科学”が、対位法的関係にある“人文学”に基づいて行われるようにするため、医療人文学プログラムが設立されている。

医療人文学教育は、人間のありようや人間関係を理解する上での手掛かりとして患者の物語(この場合の物語とは、医師および患者の体験記録、フィクション、および映画など)を用いるが、ある医師は、『医療文化は、臨床の先端にいくほど、医師と患者の関係はエビデンスに基づいた技術論、科学論が焦点となり、医師と患者の感情を共有することは、さらに困難となります。われわれが行うことができる第一歩は、物語を用いることです。・・・そのようにすることで、われわれが提供する情報が、患者さん一人一人にとってどのような意味があるかに気づくことができます。』と述べた。」

と書かれていました。

医師と患者は、双方が、“医療を行う者”と“医療を受ける者”という関係だけでいてはいけないと改めて思いました。
Posted by GoYangI at 2017年06月14日 12:30
コメント、ありがとうございます。あたたかな心をもって、科学的な診察をしていこうと考えております。情報提供、ありがとうございます。
Posted by 畠 at 2017年06月21日 22:35
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